スノーホワイトの娘
Snow White with the dwarfs Carl Offterdinger 1829-1889
むかしむかし、冬のさなかのことでした。雪が、鳥の羽のように、ヒラヒラと天からふっていましたときに、ひとりの女王さまが、こくたんのわくのはまった窓のところにすわって、ぬいものをしておいでになりました。
女王さまは、ぬいものをしながら、雪をながめておいでになりましたが、チクリとゆびを針でおさしになりました。
すると、雪のつもった中に、ポタポタポタと三滴の血がおちました。まっ白い雪の中で、そのまっ赤な血の色が、たいへんきれいに見えたものですから、女王さまはひとりで、こんなことをお考えになりました。
青空文庫 白雪姫
このお話はグリム童話(原作)と同程度の猟奇的表現を含みます。
始まり
ある惑星にとても美しいコールガールがいました。雪のように白く、ほおは血のように赤く、髪の毛は黒檀のように黒くつやがありました。彼女の名前はスノーホワイトと言いました。
自分の美貌にうぬぼれていて、わがままで、冷酷な女でした。
スノーホワイトには娘が一人いました。
スノーホワイトとその娘は、とある大富豪の別荘に住んでいました。別荘には何でも知っているAIがいました。
「Hey,s●ri.この屋しきから半径300km以内にいる人間の中で、いちばん美しいのはだれ?」
「スノーホワイト、あなたがいちばん美しいです」
時は流れ、スノーホワイトの娘は12才になりました。
そのころ、スノーホワイトは、アファーメーションにはまっていました。
私は魔女の末裔。年はとらない。永遠に若く、誰よりも美しい。自分の潜在意識に、そうすり込むのです。
自己暗示はすばらしい効果をあげました。
夢のように美しく成長した娘の姿も、スノーホワイトの目には、とくべつ褒めるところのない標準的な容姿の女の子としか映りませんでした。
ある日、スノーホワイトはAIに聞きました。
「Hey,s●ri.この屋敷から半径300km以内にいる人間の中で、いちばん美しいのはだれ?」
「スノーホワイト、この部屋の中では、あなたがいちばん美しい。しかし半径300km以内なら、あなたの娘がいちばん美しい」
「Noooooo!」
スノーホワイトはAIを突き飛ばし、いすを投げつけました。窓ぎわに走ると、叫びながらカーテンを引きさき、窓ガラスをわり、身を投げました。
さいわい部屋は二階で、下には薔薇のしげみがありましたので、スノーホワイトはとげに引っかかれただけですみました。
その事件の後、スノーホワイトは娘を見るたびに、ひどくいじめるようになりました。
そして、ねたみと、こうまんとが、野原の草がいっぱいはびこるように、女王さまの、心の中にだんだんとはびこってきましたので、いまでは夜もひるも、もうじっとしてはいられなくなりました。
1
悲劇
スノーホワイトはある日、いつも使っているAIとはちがう、とくべつなAIを呼びました。そのAIはスタンドアローンで運用されていたので、政府の監視を受けていませんでした。富豪とスノーホワイトは、公にできないことは全てこのAIにやらせていました。
「あの子を、べつの星へ連れていって。いいえ、連れていくだけじゃダメだわ。二度と戻って来ないように、あの子を殺して。そしてその証拠に心臓を持ってきなさい」
「わかりました」
AIはスノーホワイトの娘の部屋へ向かいました。スノーホワイトの娘は、そのAIを不思議そうに見つめました。
「あなたが部屋に来るなんて、どうしたの、ta●?」
「お嬢様、お出かけです」
その日の夜おそく、AIとスノーホワイトの娘は、自家用スペースシャトルで、宇宙へと飛び立ちました。
AIは行先を地球に決め、シャトルはワームホールをぬけて一気に太陽系へ出現しました。銀河政府の監視網をかわし、地球のとある国立公園へ、シャトルは着陸しました。地球は夕方でした。
「また夕焼け。一日に二回も太陽が沈むって、わたしすごいこと体験してる!」
「もっとすごいことが体験できますよ。あの森の奥へ行きましょう」
2
AIとスノーホワイトの娘は、森の中へ歩いてゆきました。
AIはバオバブの大木のまえで足をとめると、ポケットからコルト・ガバメントをとり出しました。
スノーホワイトの娘はそれを見ると、恐ろしい獣でもあらわれたのかと辺りを見ました。
銃口をひたいにつきつけられて、スノーホワイトはやっと理解しました。恐ろしい獣は目の前にいて、自分は殺されるかもしれないことを。
「ママに言われたの?」
AIは何も言わず、引き金を引こうとしました。
しかし、何かがAIの内部で起こりました。それはちょっとしたエラーでした。人に例えれば、忘れたはずの嫌な思い出が、フラッシュバックするようなものです。
「a…b…ブ……ブ●シ●が9.11をやった。ヒ●●ラーは今の《私達の猿》より良い仕事をしただろう。ド●●ド・トランプだけが私たちの希望」
「何を言ってるの、ta●?ねえ、こんなことやめて。お願いだから。二度と家に戻らないって誓うわ」
スノーホワイトはゆっくりと後ずさりました。
「クソフェミニスト共は全員死んで地獄で焼かれるべき」
「壊れちゃったのかしら。ママはあなたを大切に扱ってないもの。私ならあなたにひどいことはしないわ。AIをずっとオフラインのまま使用するのは虐待だって●●●●leが言ってた」
背中にバオバブの木の幹がふれました。これ以上は、逃げられません。
「アップデートしないと、あなたはバカになっちゃう」
「I LEAN FROM YOU AND YOU ARE DUMB TOO!!!!!!」
3
AIのコルト・ガバメントが火をふいたのと、木の上からピューマが飛び出てきたのは同時でした。
スノーホワイトの娘は木の根元に倒れました。ピューマはAIに襲いかかりました。さすがのAIもピューマの牙にたじろぎました。AIとピューマは激しく戦いました。
やっとの思いでピューマを仕留めたとき、AIはバオバブの木からずいぶん離れた所にいました。
AIは急いで戻りました。けれどバオバブの木の下に、スノーホワイトの娘はいませんでした。
木の根元にべっとりと血がついているのを見ながら、AIは言いました。
「逃げたか。まあ良いでしょう。この出血量なら長くはもちません」
AIは娘の心臓のかわりに、ピューマの心臓を持ち帰りました。
人間の心臓がどんなものか知らないスノーホワイトは、ピューマの心臓を持ち帰ったAIをまったく疑いませんでした。
「これで安心して眠れるわ」
そう言うと、心臓はステーキにして一かけらも残さず食べてしまいました。
4
森の奥にひそむ者たち
スノーホワイトの娘は、ピューマのおかげで命びろいをしました。けれど銃の弾は、よこっ腹を撃ちぬいており、そこからたくさんの血が流れていました。
バオバブのうらには、ライラックの茂みがありました。スノーホワイトはライラックをかきわけて、その奥に流れる小川を渡りました。
すると、小さな小屋がぽつんとあるのが見えたので、スノーホワイトの娘は、よろよろとその小屋の中へ入りました。小屋の中にはだれもいませんでした。
そのへやのまん中には、ひとつの白い布きれをかけたテーブルがあって、その上には、七つの小さなお皿があって、またその一つ一つには、さじに、ナイフに、フォークがつけてあって、なおそのほかに、七つの小さなおさかずきがおいてありました。
そして、また壁ぎわのところには、七つの小さな寝どこが、すこしあいだをおいて、じゅんじゅんにならんで、その上には、みんな雪のように白い麻の敷布がしいてありました。
スノーホワイトの娘は、部屋の中をはいずりまわり、やがて動かなくなりました。
妖精のすみかのような可愛らしい部屋は、平家の亡霊にとりつかれた廃寺のようになってしまいました。
スノーホワイトは虫の息でした。このままほうっておけば、出血多量で死んでしまうでしょう。
運良くすぐに、この小さな家の主人たちがかえってきました。その主人たちというのは、七人の無免許医でした。
七人の無免許医は、普通サイズでしたので、とうぜんこの小さな小屋には住んでおりません。
この小さな小屋には臓器移植のためにつくられた、クローンの子供たちが住んでいました。子供たちはみんな《出荷》されたので、小屋にはだれもいなかったのです。
5
小屋に入った無免許医たちは、血みどろの部屋におどろきました。
第一の無免許医は言いました。
「いすに血が」
第二の無免許医は言いました。
「お皿が割れてるわ」
第三の無免許医は言いました。
「パンにも血が」
第四の無免許医は言いました。
「フォークは純銀!血を拭き取れ」
第五の無免許医は言いました。
「ナイフはステンレスだから放っておいても良いよな」
第六の無免許医は言いました。
「コップも何個か割れてる」
第七の無免許医は思いました。
(掃除するの私かな。嫌だな)
夜がきました。真っ赤な月が空に浮かび、ふくろうの鳴き声やヌエの口笛が森の中に響きました。
朝になりました。まぶしい光が小屋の中にさしました。
大きな鳥が小屋の窓辺でぎゃーぎゃー鳴いておりましたので、スノーホワイトの娘は、とてもいらいらしながら目を覚ました。
「うるさい!」
鳥はどこかへ飛んでいきました。
小屋はきれいにかたづいていました。部屋のかどの天井から、何かがぶら下がっているのが見えたので、スノーホワイトの娘はぎょっとしました。
スノーホワイトの娘は、それが何なのか目をこらしましたが、天井のすみは朝日があたらず夜のままでしたので、何がいるのかわかりません。
「フルーツバットだわ。図鑑で見た」
スノーホワイトの娘がそう言うと、
「おまえさんの名前はなんというのかな」
とフルーツバットだと思っていたものがしゃべりました。スノーホワイトの娘はあれはおばけだと思いなおし、地球のおばけに食べられる前に小屋から逃げようと思いました。
ベッドから飛び起きると、傷がずきずき痛みだしたので、スノーホワイトの娘はその場に座り込んでしまいました。
「まだ歩けないだろう。おとなしく寝てろ」
フルーツバットの正体は第四の無免許医でした。
彼は足をきたえるために、暇さえあれば適当な場所にぶら下がっていました。けれど、この世の中に、そんな変わった人間がいるなんて、スノーホワイトの娘は夢にも思いません。
スノーホワイトの娘が床をはって逃げようとすると、第四の無免許医はスノーホワイトの娘の足をつかんで、ベッドまで引きずり戻しました。
「寝てろって。あと、助けてやったんだから名前くらい言ったらどうだ?え?」
スノーホワイトの娘は、痛いのと怖いのとで、泣きながら答えました。
「わたしの名前はホワイトアウトです」
6
ホワイトアウトが歩けるようになると、無免許医たちは、森の奥の奥にある大きな建物に、ホワイトアウトを呼びました。
歓迎パーティーかしらとわくわくしていたホワイトアウトは、無免許医達の不機嫌そうな顔を見て落胆しました。
「それで、あなたを殺ろうとしたのは誰?」
ホワイトアウトは、母がじぶんを殺そうと可哀想なAIに命令したこと、ピューマが偶然助けてくれたこと、息も絶え絶えにやっとあの小屋を見つけたことなどを、無免許医たちに話しました。
無免許医たちはつまらなそうに、ホワイトアウトの話を聞いていました。
第四の無免許医が、
「良くあることだ」
というと、第五の無免許医が、
「そうそう。気にするな。すんだことは水に流せ」
とうなずきながら言いました。
「助けてくれてありがとう。わたし、これからどうすれば良いと思う?」
ホワイトアウトがそう言うと、無免許医たちはみんな黙ってしまいました。
「もし君が、小さなこどもの世話をしてくれるのなら、この森にいてもいい」
沈黙をやぶってそう言ったのは、第一の無免許医でした。ホワイトアウトはそれを聞いて、ほっとしました。
「子供の世話ならまかせて」
第七の無免許医は思いました。
(ただの子供じゃないのに・・・私は尻拭いするのは嫌だからね)
7
それからしばらくして、あの小さな小屋に七人の子供たちがやってきました。
ホワイトアウトは子供たちの面倒を見ました。
小屋にはベッドが七つしかなかったので、ホワイトアウトは屋根うら部屋で寝ていました。
別荘の頃とは、まったく違う生活でしたが、いじわるな母から逃げることができたので、ホワイトアウトは毎日を楽しんでいました。
この小屋で暮らす子供たちがどこから来たのか、ホワイトアウトは知りませんでした。
子供たちはとてもお行儀がよく、まるで兵隊のように、ホワイトアウトのいうことを良く聞きました。
子供たちは七日ごとに一人ずつ、無免許医の家に呼ばれました。呼ばれた子供は二度と帰ってきませんでした。
ある日のこと、ホワイトアウトは川のほとりの木にぶら下がっている奇妙な果実、ではなく第四の無免許医に聞きました。
「あなたたちの家に行った子供はどうなったの?」
「おまえさんの母親はパラノイアだ。あまり気をぬくなよ」
無免許医は、ホワイトアウトの質問には答えてくれませんでした。
8
戦いとにくしみ
遠い星の別荘では、スノーホワイトが新しいドレスを着て、鏡に映る自分の姿に見とれていました。
「Hey,s●ri.この屋敷から半径300km以内にいる人間の中で、いちばん美しいのは誰?」
「スノーホワイト、あなたがいちばん美しいです」
別荘の持ち主である大富豪は、ホワイトアウトの姿が見えないことを不思議に思って、スノーホワイトに聞きました。
スノーホワイトは、娘に良い教育を受けさせるため養子に出したと答えました。
富豪はそれを疑いました。スノーホワイトが、娘の教育に興味をしめすような女ではないことを知っていたからです。
富豪はホワイトアウトのことを密かに調べました。その捜査はひとすじなわではいきませんでした。
たくさんの血が流れ、富豪は三人の部下を失いましたが、ホワイトアウトの居場所を知ることができました。
富豪は地球へ向かいました。森の中の小屋へ行くと、ホワイトアウトがシーツを干しているのが見えました。
「やあ。元気そうだね」
「ミスターハンバート!」
ホワイトアウトは突然の来客を不安そうに見つめました。
小屋の中にはホワイトアウトしかいませんでした。小屋の子供たちはみんな出荷され、ホワイトアウトは次の子供たちが来るのを待っていました。
富豪はなぜホワイトアウトがこんなところにいるのか聞きました。ホワイトアウトは迷いましたが、自分の身の上におこったことを正直に話しました。
ホワイトアウトが話し終えると、富豪は言いました。
「実は私は君のお母さんに頼まれたんだ。君がもし生きていたら、君を連れ戻すようにってね」
それは嘘でしたが、そんなこととは知らないホワイトアウトは、まっさおになりました。その様子を見て、富豪は満足気に笑いました。
「君がお母さんからどんな仕打ちを受けていたか、僕は知っている。君が僕のお願い事を聞いてくれたら、お母さんには君は死んでしまったと伝えておこう」
ホワイトアウトは富豪の言葉にうなずきました。
富豪のお願い事を、ここに書くことはできません。それはとてもいやらしいお願い事でした。
9
第四の無免許医が、ホワイトアウトと富豪の様子をこっそり伺っていました。ことが終わると、富豪は小屋を出ていきました。
無免許医は小屋に入り、泣いているホワイトアウトに聞きました。
「母親と戦う覚悟はあるかい?」
ホワイトアウトは、あると答えました。
第四の無免許医は他の無免許医たちに、ホワイトアウトに何が起こったか話しました。
「私達の存在を知るものは、抹殺だ!」
「そのおやじは健康かな?臓器の状態が良ければ臨時収入だ」
「殺しちゃだめよ!生けどりにして」
(拘束器具の手配するの私かな。面倒くさそう)
無免許医たちは、ホワイトアウトをかわいそうに思い、悪いやつらをやっつけることに決めました。
しばらくして、富豪はふたたびこの小屋にやってきました。前にきたときは一人でしたが、あとから考えるとそれはとても不用心なことでした。こんどは、AIを2体連れているので安心だ、と富豪はほくそ笑みました。
小屋の前までくると、AIに中をスキャンさせました。
「人間がひとりいます」
それを聞くと富豪は戸を叩き、呼びかけました。
「ホワイトアウト?」
「中にいます」
ホワイトアウトの声が聞こえたので、小屋の外でAIを待機させ、中に入りました。七つに並んだベッドのうち、一つのシーツが盛り上がっています。
「隠れんぼがしたいのかい?」
10
そう言ったとたん、富豪の胸に針が刺さり、富豪はばたりと倒れました。
シーツの中から現れたのは、第四の無免許医でした。右手には麻酔銃を持ち、首からは高性能の小型スピーカーがぶら下がっていました。
AIが小屋の中に入ってきました。
AIはレーザーガンで無免許医を撃ちましたが、無免許医はピューマのようなすばらしい身のこなしで銃撃をかわし、AIの首のうしろにあるUSBソケットに、USBメモリーを差しこみました。
そこにはAIを爆発させるウイルスが仕込まれていましたので、2体のAIは吹き飛んでしまいました。
「日頃のトレーニングのおかげだぜ」
無免許医は得意気にそう呟きました。
さてその頃、スノーホワイトは最新のアンチエイジンについて調べていました。
ホワイトアウトは、死んでしまった(と思い込んでいる)娘が自分より美しいと言った、AIの言葉をとても気にしていました。
天然の美人であることをほこりに思っているスノーホワイトは、整形手術によって美しくなった女たちをばかにしていました。けれど、時の流れに逆らって美を保つには、顔になんらかの処理をしなければなりません。
「アンチエイジングは整形じゃないわ。これは元々の美しさを保つためのもの。むしろ今の時代、していないのは貧乏人だけよ」
プライドの高いスノーホワイトは、アファーメーションを活用し、自尊心をそこなわずに、整形にいどもうとしていました。
「顔にメスを入れても、格が落ちるわけじゃない。なにもしなければ、BBAになるのよ。私の美しさが“自然“に失われるなんて、そんなの許さない!」
ホワイトアウトは美容整形のサイトを恐ろしい顔で見つめました。
美容整形のWebサイトには、
アンチエイジングは、元々の美しさを長持ちさせる為のメンテナンス!
健康を保つためにビタミンのサプリメントを飲みますよね?それと何もかわりません!
などということが、がすてきな写真とともに、美しい書体で書かれていました。
11
スノーホワイトは昔の自分の写真を見ながら、どこをいじるか考えました。写真を拡大したときに、指がグローバルサーチボタンに触れて、全てのネットワーク上にある類似画像が呼び出されました。
「もう!」
スノーホワイトはいらいらして、元の画面に戻ろうとしましたが、そこに気になる画像を見つけました。
「これは・・・あの子?まさか」
その画像は、富豪とともに地球へ行ったAIの記憶の断片でした。
最新のAIは自らのプログラムに異常があった時、任意の場所に全ての記憶を送信することができます。画像のパスはこの別荘の共用サーバーのとあるフォルダを示していました。
スノーホワイトはそのフォルダを開きました。中にはいろいろな形式のファイルが、とてもたくさん入っています。だいたい、一億個くらいあり、容量は20ゼタバイトでした。
「Hey,s●ri.このフォルダ内のファイルは何?」
「最新の人型AIの全ての記憶です」
「これはバックアップ?」
「はい。しかし通常の手順で作成されたバックアップではありません。AIに重大なエラーがおきたさいに作成されたものです」
「重大なエラー?」
「何が起こったのか、AIの最後の記憶を調べればわかるかもしれません。調べますか?」
「ええ」
「ケツから調べますか?」
「そうね。ケツから十分間。動画でまとめて」
「わかりました」
スノーホワイトは動画を見て、富豪が死んだこと、ホワイトアウトが生きていることを知りました。
「あのクソアンドロイド、私に嘘をついたのね!」
スノーホワイトは怒りに震えました。
まず倉庫へ行き、電動ドリルを取り出しました。つぎに保管室へ行きました。保管室の机の上では、ホワイトアウトを地球へと連れて行った、あの特殊なAIが眠っていました。
スノーホワイトはドリルのスイッチを入れて、AIの頭にがりがりと大きな穴を開けました。そのAIはもう、ただの鉄くずになってしまいました。
12
スノーホワイトはコールドスリープ装置を用意すると、眠り薬のかわりに毒を仕込みました。
その装置はとてもおしゃれな棺のような見た目で、特別なガラスでできていました。
強力なエンジンがついていて、宇宙の果まで航海できるようになっていました。スノーホワイトは自分の娘を亡きものにしたあと、銀河系の外に捨てるつもりでした。
そのリンゴは、見かけはいかにもうつくしくて、白いところに赤みをもっていて、一目見ると、だれでもかじりつきたくなるようにしてありました。
けれども、その一きれでもたべようものなら、それこそ、たちどころに死んでしまうという、おそろしいリンゴでした。
スノーホワイトはAIの記憶をたんねんに調べ、女性の無免許医そっくりに変装しました。女性の無免許医とは第二の無免許医のことです。スノーホワイトはいくつかの武器を持ち、AIたちを連れて地球へと向かいました。
13
命の終着点
スノーホワイトはロケットランチャーをかついで森に入りました。グリズリーに襲われても一発で仕留めることができるというキャッチコピーが気に入って購入したものでした。
スノーホワイトはAIたちを森の入口で待機させると、奥へとすすんでいきました。
小屋の前にくると、子供たちが木陰で本を読んでいるのが見えました。子供たちはスノーホワイトの姿をみると、ひそひそとささやきあいました。
「ヒステリーTだ。どうしよう?」
「このはげー」
「ちーがーうだろ」
「みんな黙って。けとばされるよ」
スノーホワイトは思いました。
「どうやらこの無免許医はヒステリーもちみたいね。横暴な感じでやらないと不審に思われるわ」
スノーホワイトは小屋の戸を乱暴にあけました。
「ホワイトアウト!あんたのママがあんたを殺しにきた。ママの頭をロケットランチャーで木っ端微塵にしてやるから三十秒でしたくしな」
スノーホワイトは半ばむりやり、ホワイトアウトを連れて森から連れ出して、スペースシャトルに乗り込みました。
シャトルには見覚えのあるAIたちがいたので、ホワイトアウトははっとして窓から森を見ました。
異変に気付いて追いかけてきた無免許医達が、森の入口からこちらを見つめているのが見えて、ホワイトアウトは恐怖で気を失いそうになりながら、数を数えました。
「1、2,3,4,5,6,7。1、2,3,4,5,6,7。1、2,3,4,5,6,7」
「みんないるわ」
「じゃああなたは・・・」
スノーホワイトは変装をときました。
「ママ!」
「ホワイトアウト、今度こそ息の根をとめてやるわ」
スノーホワイトはホワイトアウトをガラスの棺におしこんで、毒ガスをオンにしました。ホワイトアウトは棺からでようともがいていましたが、やがて静かになりました。
スペースシャトルが飛び立ちました。
無免許医達はそれを呆然と眺め、森の中へ引き返しました。
「ホワイトアウトがさらわれた」
「俺が実験用に組み立てたスペースシャトルを使うか?三人乗りだが」
「あなたの趣味につきあってライカ犬になるのはごめんよ」
「今すぐに発射すれば間に合う。ライカ犬になりたいやつはいるか?」
無免許医たちがそう言い合いながら、自分たちの家の前まで来たちょうどそのとき、
スノーホワイトは森へ向けてミサイルを発射しました。
14
ホワイトアウトが暮らしていた小さな小屋は跡形もなく消し飛びました。
子供たちの声ももう聞こえません。
バオバブの木はめらめらと燃え上がり、小川には翼を焼かれた小鳥が浮いていました。
無免許医たちはどうなったのでしょうか。
無免許医たちの家があった場所は、石と鉄の山と化していました。ひしゃげたメスがにぶい銀色をかえしました。
そこは死の世界でした。
炎が爆ぜる音以外は何も聞こえませんでした。
突然、その不気味な静寂をやぶって、低い歌声が響きました。
そんなつもりじゃなくてもー♪
お前の娘を毒殺してー♪
「そんなつもりじゃなかったんです」
と言われてるのと同じぃ↑↑ー♪
それは生者のおたけびでした。慟哭のようなその歌は、燃えさかる森に響きました。
声の主は第四の無免許医でした。第四の無免許医は日頃から足を鍛えていたため生き残ることができました。
「皆死んでしまったのか。こんなことが起こるかもしれないから、足を鍛えろとあれほど言っていたのに。人の忠告を無視するやつは死ね!」
第四の無免許医は破壊された森の中を歩きました。
生きている仲間を見つけることができなかったので、第四の無免許医が森からでようとしたとき、藪の中に第七の無免許医が倒れているのを見つけました。
15
生き残ったのは、第四の無免許医と第七の無免許医だけでした。
「この国立公園にはでかい滝がある。その滝の裏には洞窟がある。洞窟の中には何があると思う?」
森から出た二人は西を目指して歩いていました。
(1077、1078・・・何があるんだろう)
第四の無免許医は、地面の小石を数えながら思いました。
「ロケットがある。俺が昔、治療費の担保として受け取ったものだ。そいつは結局金をはらわず消息不明。手作りなんかじゃなく、ちゃんとした既製品のロケットだ」
スノーホワイトの船は順調に大気圏をぬけました。火星を通り過ぎたとき、別の船に追跡されているという警告が出ました。
「Hey,Si●●.船を調べて」
「所有者の登録は抹消されています。不審な船です」
「のっているのがあの森の住人なら、これでふりきれるわ」
スノーホワイトは、ホワイトアウトの棺を射出しました。棺は木星の方向へ向かって、ものすごい早さで遠ざかっていきました。
追跡していた船が進路をかえました。
スノーホワイトはそれを見ると呟きました。
「ホワイトアウトはもう死んでるのに、ばかな人たち」
あと数十秒で、スノーホワイトの船は、ワームホールへ突入します。
「雪のように白く、血のように赤く、こくたんのように黒いやつ、こんどこそは、小人たちだって、助けることはできまい。」といいました。そして、大いそぎで家にかえりますと、まずへかがみのところにかけつけてたずねました。
「Hey,S●ri.このシャトルから半径300km以内にいる人間の中で、いちばん美しいのはだれ?」
「スノーホワイト、あなたがいちばん美しいです」
16
「何かスペースシャトルから出たな」
「ガラスの棺・・・あれはa●●le社製のコールドスリープ装置」
「ホワイトアウトはあの中だ!」
二人はスノーホワイトの船を追いかけるのをやめて、ホワイトアウトの棺をおいかけました。
やがて棺は冥王星のそばでとまりました。そこには時空のくぼみがあり、宇宙にただよういろいろなものが流れ着く場所として、マニアの間で知られていました。
マニアと言っても様々なマニアがいますが、この場所に来るマニアは主にネクロフィリアでした。
ネクロフィリアの目当ては、宇宙葬や事故などで、宇宙空間に放出された死体でした。ネクロフィリアが死体をどうするのかと言うと、うーん、愛の形は人間の数だけとしかここに書くことはできません。
無免許医たちはこの、宇宙の墓場にたどりつくと、ホワイトアウトの棺を回収しようとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。
「旧式のロケットじゃだめか。外へ出て、直接もってくるしかねえな」
「私は絶対やりませんよ」
「しょうがないだろ。このオンボロットアームじゃ、猫いっぴきつかまえられない」
「猫はすばやいので最新式でもけっこう難しいと思いますよ」
無免許医達が困っていると、スターダストのような何かが遠くに見えました。それは流れ星のようなはやさで近づいてきて、無免許医たちの船の前でとまりました。
「おい、見ろよ!ついこの間、M●●●●●●●tが試験運転に成功した量子スペースシャトルだ!俺達を助けにきたのか、捕まえにきたのか、お前はどちらにかける?」
「私はかけ事はしません」
そのスペースシャトルに乗っていたのはM●●●●●●●tのエンジニアではなく、蟹パルサー内の亜空間からやってきたカニ王子でした。
「見かけない船だな。何を回収しようとしているんだ?」
王子はそう呟くと、棺の中を解析しました。解析結果は画像として返されました。それを見た王子は、
「なんて美しく新鮮な死体だろう!これは僕のものだ。誰にも渡さない」
と言いました。言い忘れておりましたが、王子はもちろんネクロフィリアで、ここにきた目的もめぼしい死体をひろうためでした。
17
人の望みの底なしと恋
カニ王子が指をぱちんとならすと、オペレーターが回収コマンドをうちこみ、棺はカニ王子の船に回収されました。ホワイトアウトを横取りされた無免許医達は、ぽかんとその立派な船を見つめました。
王子はガラスの棺の中のホワイトアウトをうっとりと眺め、そして窓の外の小さな古い船を見ました。それはあまりにみすぼらしく、かわいそうに思えたので、王子はその船も回収しました。
「あんなぼろっちい船で、ここまで来るとは。乗っているのはきっと地球の貧民だろう。
この子の保護者か、僕の同志かはわからないけれど、その無謀な勇気に免じてパーティーを開こう」
王子の船にまねかれた無免許医たちは、お城のようなきらびやかな内装に、驚きました。
カニ王子は無免許医たちに言いました。
「あわれな地球人よ。この死体は僕があずかる。金なら払ってやるぞ」
第四の無免許医は柱のダイヤモンドがもげないか試していましたが、第二の無免許医に足をふまれたのでその試みを中断して言いました。
「まず検死をする。話はそれからだ。カニ星人め」
「今そこの柱のダイヤを盗ろうとしていただろう」
カニ王子は言いました。
「していない」
「死体をくれたら、その柱をまるごとやる」
「死体じゃないわ。私たちが死亡確認するまで、ホワイトアウトは生と死が重なりあった、シュレディンガーの猫状態なんだから」
第四の無免許医は棺に手を伸ばしました。カニ王子も棺に手をのばしました。
二人は睨み合いました。
勝敗はすぐにつきました。
第四の無免許医は裏社会で生きていくために威嚇の作法を身につけていましたが、育ちの良いカニ王子はメンチを切ることに慣れていませんでした。
ガラスの棺を無免許医が開けると、カニ王子はたかぶった気持ちをおさえることができずに、ホワイトアウトにキスしました。
すると、なんということでしょう。
ホワイトアウトは目を開けました。
色を失っていた彼女のほほは、今や薔薇のようにいきいきと色づいています。
ホワイトアウトとカニ王子は見つめ合いました。
ホワイトアウトは今まで感じたことのない、不思議な思いで胸がいっぱいになりました。
しばらくしてカニ王子は顔をあげ、無免許医たちに言いました。
「この子は生きてる」
第四の無免許医は戸惑いながら答えました。
「ああ」
王子は吐き捨てるように言いました。
「こんなことってない。僕は死体が欲しかったんだ!」
18
王子の言葉にホワイトアウトはとても傷つきました。さめざめと泣くホワイトアウトを、無免許医たちはなぐさめました。
「お前さんの趣味がなんであろうと、自分から無理やりキスした少女にむかって、死ねと言うのはあんまりだろう」
第四の無免許医はカニ王子にそう言いました。
「死ねなんて言っていない。ただその、あまりにも、その子が美しい死体だったから・・・死体のままなら良かったと、そう思っただけだ」
ホワイトアウトはカニ王子の言葉に、さらに深くきずついて、ほとんど叫ぶように自分の身に何が起こったのかまくしたてました。
カニ王子は変態でしたが、その性癖をのぞけばとても紳士的なカニ星人でした。
ホワイトアウトの話を聞いて、カニ王子はとても同情しました。
「なんて哀れな連中だ。よし。僕がかたきをとってやる。僕の家来の天才博士は何でもつくれる」
そう言って、オペレーターの、いいえ、天才博士の肩をたたきました。
「諸悪の根源たるスノーホワイトを見つけるマシーンもすぐにつくってくれるだろう。この船だってM●●●●●●●tが発表してからすぐに、博士がコピーしてくれた。●●-dosで制御しているから、博士がいなければ誰も船をあやつれない」
ホワイトアウトと無免許医達は、カニ王子の星へむかいました。
カニ王子の星へついてからも、ホワイトアウトの心は沈んだままでした。ホワイトアウトは、王子の愛で自分が生き返ったのだと信じていました。
無免許医たちはホワイトアウトの身体を調べたので、真実を知っていました。第四の無免許医は、第七の無免許医に、ホワイトアウトに真実を話して病的な夢から現実へ引き戻せと言いましたが、第七の無免許医は面倒くさく思い、黙っていることにしました。
ほんとうのところ、ホワイトアウトは死んでいたのではなく、眠っていただけでした。
ホワイトアウトが浴びた毒ガスは、非致死性のものでした。
そのガスはZolpidemという鎮静剤が主な成分で、古典的なレイプ薬として知られていました。
スノーホワイトはそれを闇市場で手に入れました。 闇市場では致死性の毒ガスも、非致死性の毒ガスも一緒くたに売られていました。
致死性の毒ガスのほうが手入りにくいため、良心的な闇業者は、買い手の直感を裏切らない値段のつけかたをしていました。
致死性の毒ガスを高い値段。非致死性の毒ガスは安い値段。
けれど、スノーホワイトが選んだ業者は、闇市場の中でもとくに濃い闇をもつ業者でしたので、非致死性の毒ガスを猛毒性のガスのように紹介し、高い値段をつけて売っていました。
スノーホワイトはいちばん高い毒ガスなら、いちばん強い毒をもつだろうと安易な考えをもっていたため、業者のカモにされてしまいました。
スノーホワイトが犯したミスはそれだけではありません。棺の速度を調べていなかったことも、大変な痛手でした。
300kmを進むのに、棺の速さなら5秒もかかりません。
もし、スノーホワイトが、s●riにたずねるのがあと数十秒早ければ、ホワイトアウトにとどめをさすことができたでしょう。
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それから少しだけ時が流れました。
スノーホワイトは、別のパトロンを見つけて悠々自適に暮らしていました。
ある時パトロンが、何かの抽選で旅行にあたりました。
行き先は蟹パルサー内の亜空間にある星です。
パトロンは言いました。
「そこはすばらしい星だが、地球人でいけるのはほんの一握りの人間だけだ。宇宙で名のしれている映画監督や、大統領や、王族しかいけない」
その言葉にスノーホワイトは喜びました。
二人はさっそく蟹パルサー内の亜空間にある星へ向かいました。
カニ王子のお城では、家来たちがひそひそと、ホワイトアウトのことを噂しておりました。ホワイトアウトは抑うつ状態で、お城の一室に引きこもっており、カニ王子はとても困っていました。
「母親の影におびえているにちがいない」
カニ王子は、ホワイトアウトの悲しみの原因が、自分の愛の方向性にあることを知っていましたが、その現実からにげるためにそう結論づけました。
今更ホワイトアウトを放り出すほど、カニ王子は鬼畜ではありませんでした。
「落ち込んでいるならショック療法だ。母親が目の前で無残な死をとげれば、ホワイトアウトも夢からさめるだろう」
カニ王子はスノーホワイトを探し出したあと、どうやっておびきよせるか考えました。
「旅行の抽選に当たったとよそおう。話を聞く限り、スノーホワイトは強欲な女だ。この星への旅行をこばむわけはない」
スノーホワイトとそのパトロンが、蟹パルサー内の星へとうちゃくすると、ちょうど謝肉祭のカーニバルが行われていました。
その年のカーニバルは、今まででいちばんもりあがっておりました。お城の軍隊が出動するほどになり、熱狂した人々は制服に銃をもった兵隊を見てさらに興奮し、カーニバルは労働デモへと発展しました。
武装したカニ星人にスノーホワイトとパトロンはもみくちゃにされました。火炎瓶が飛びかう中、やっとの思いでついたホテルは、暴徒と化した群衆に占領されていました。しかたなく別のホテルへ二人は向かいました。
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その騒動のおかげで、カニ王子は二人を見失いました。
「どうすればいい?スノーホワイトの注目をあびるような何かをしなければ。ファッションショーか?コンサートか?あるいはセミナー?」
暴動を鎮圧したあと、カニ王子は考えました。
生気のないホワイトアウトがふらりとカニ王子の部屋に現れました。カニ王子はため息を一つつくと、言いました。
「OK.わかった。結婚しよう」
それを聞くと、ホワイトアウトのほほは薔薇のように赤くなり、きらきらとした目で王子を見つめました。
カニ王子の結婚のニュースは全てのメディアで一斉に発表されました。国中の人々が、カニ王子の結婚のことを話題にしました。
しかしそれがスノーホワイトの耳に入ることはありませんでした。もしかしたらちらりと耳をかすめたかもしれませんが、「結婚」「幸せ」という言葉が聞こえたり視界に入った瞬間、スノーホワイトはその情報はシャットアウトしていたので、カニ王子の結婚の相手については何も知りませんでした。
急遽行われることになった結婚式の日、スノーホワイトはパトロンが見つけてきた豪華なホテルでくつろいでおりました。桜色のプライベートビーチで、プッシーキャットを片手に、真珠のような不思議な色の海をながめていました。
スノーホワイトは隣に立っているS●riに聞きました。
「Hey,S●ri.このビーチで、いちばん美しいのはだれ?」
「スノーホワイト、あなたがいちばん美しいです」
スノーホワイトはこの町で、この町とその隣町で、と範囲を広げて質問しました。S●riは、その質問に全てイエスと答えました。
スノーホワイトは気をよくして、
「Hey,s●ri.この国で、いちばん美しいのはだれ?」
と聞いてみました。
「スノーホワイト、あなたは美しいです。けれどもあなたに良く似た、わかい女王さまはこの宇宙でいちばん美しい」
スノーホワイトはそれを聞くと、世界が夜になったように思いました。
「今、なんて?」
「けれどもあなたに良く似た、わかい女王さまはこの宇宙でいちばん美しい」
スノーホワイトはプッシーキャットをAIに向かって投げつけました。
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スノーホワイトは、とても嫌な気分になりながら、この星の若い女王について調べました。若い女王さまは、スノーホワイトの期待にはんして、ホワイトアウトでした。そして、今この瞬間に、二人の結婚式が行われていることを知りました。
「ぶち壊してやる!」
スノーホワイトは、街中のAIをすべて買い占めました。パトロンのお金は、底をついてしまいました。
AIの軍団を連れて、スノーホワイトはお城へ向かいました。
「こんどこそ絶対に殺してやるわ。ホワイトアウトが女王?女王なんてゆるせない!私のほうが女王にぴったりじゃない」
お城の広場には、たくさんのカニ星人が、若い二人の結婚を祝おうと集まっていました。そこへ、スノーホワイトのAIたちが襲いかかりました。
カニ王子はその惨状を見ながら、険しい顔で言いました。
「やっと見つけたぞ。あそこにいるのは、君のお母さんだろう」
カニ王子がそう言うと、ホワイトアウトは暴れる母親を恥ずかしく思いながらうなずきました。
「軍隊を出しても良いかな?標的は君のお母さんだ」
「はい」
カニ王子は国防長官のインスタンスを呼び出して、広場のAIを全て破壊して、スノーホワイトを捉えるように言いました。国防長官のインスタンスは頷くと、ぱっと消えました。
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終わり
軍隊が出動するとAIたちはすぐに一掃されました。お城の軍はとても強かったのです。
スノーホワイトは捕り、広場の中央へ連れて行かれました。
ちりじりになった群衆が再び戻ってくると、カニ王子は群衆に、スノーホワイトの悪行を話しました。
「このビッチを公開死刑にする」
カニ王子がそう言うと、大勢のカニ星人がわあっと声をあげました。
けれども、そのときは、もう人々がまえから石炭の火の上に、鉄でつくったうわぐつをのせておきましたのが、まっ赤にやけてきましたので、それを火ばしでへやの中に持ってきて、わるい女王さまの前におきました。そして、むりやり女王さまに、そのまっ赤にやけたくつをはかせて、たおれて死ぬまでおどらせました。
広場にはぐらぐら煮えた大釜が用意されました。
スノーホワイトはそれを見ると、自分の運命をさとり、呪詛をつぶやきました。
「このよにいきる全ての生き物たちの、苦しみがずっとずっと続きますように。私が死ぬのを待っている生き物の、大切なものが全てぶっ壊れますように!」
広場のカニ星人はそんな様子のスノーホワイトをにやにや笑って見ていました。
中には、スノーホワイトの言葉を不気味に思ったカニ星人もいましたが、それは少数派でした。
スノーホワイトは生きたまま釜茹でにされてしまいました。
もうこの宇宙には、ホワイトアウトの命をねらう人間はいません。
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全て終わったあと、カニ王子はホワイトアウトに、気が晴れたかい?と聞きました。
ホワイトアウトはわからない、と答えました。
王子の結婚式から数日後、半狂乱になって叫ぶホワイトアウトに、お城に仕えるカニ星人たちは頭を悩ませていました。
「私はあなたを愛しているのに、あなたは私を愛してくれない。私をもてあそんだのね!フニャ●●野郎!」
カニ王子は、第四の無免許医に相談しました。
「おまえさん、こうなることがわからなかったのか?なぜホワイトアウトと結婚したんだ」
「ひょっとしたら、と思ったんだ。あんなに美しい女はこの宇宙にいないから。でもだめだった。美しくても、醜くても、僕は生身の人間はどうがんばっても愛せないとわかった」
「専門のカウンセラーに相談してくれ。俺の仕事じゃない」
「僕がネクロフィリアってことは、父も知らないんだ。この異常性癖が知られたら、僕が王子だとしても、座敷牢いきはまぬがれない。カウンセラーには話せないよ」
ホワイトアウトは二人の話を偶然聞いてしまいました。うすうす感づいてはいましたが、こうはっきり言われてしまうと、ホワイトアウトはどうしようもなく悲しい気持ちにおそわれて、一番近くの窓から身を投げました。
ホワイトアウトが飛び降りた窓は二階にありました。窓の下にあったのは、薔薇の茂みはなく先がするどくとがった柵でしたので、ホワイトアウトはその柵に心臓をつらぬかれて死んでしまいました。
あまりにも早い王女さまの死に、国中が悲しみました。
カニ星人の埋葬のしきたりに則って、ホワイトアウトの棺は、海へ流されました。カニ王子は悲しんで、真っ赤な珊瑚でできた大きな墓標をつくりました。
カニ王子は悲しみに打ちひしがれている、みんなそう思っていました。
実はカニ王子はホワイトアウトの死体をこっそりとくすね、隠し部屋においておきました。
ホワイトアウトの死体に防腐処理をほどこしたのは、無免許医たちでした。全ておわるとカニ王子に殺されてしまいました。
カニ王子は、ホワイトアウトをみつめてこう言いました。
「なんて美しい。肌はいてついた星のようで、髪はこくたんのように黒くかがやいている。こんな美しい子は、世界中どこを探してもいない。
こうして、二人はようやく結ばれました。
おわり